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+ ウットリ色絵

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

ウットリ色絵について少し述べてみたいと思います。色絵といっても本当の意味は「彩色方法」というべきもので、ウットリ象嵌とも俗称されており一緒くたに使用されています。

一般的にウットリというと古い時代のものとされていますが、いつ頃から、いつ頃まで使用されたという確たる証拠は全くありません。逆に、鍍金といういわゆる“メッキ”ですが、これは古くは奈良の大仏の光背の彩色に使用され、その時は水銀(アマルガム)蒸着が大量に使用され、後に水銀中毒を引き起こしたとされています。したがって、ウットリは古く、鍍金は古くないという事はなく、こうした点が非常に曖昧なままになっています。

 

さて、ここでウットリ色絵についての従来の説明を引用すると、「袋着色絵ともいうが、色絵を施さんとするところに金の薄い板をかぶせ、その裾をあらかじめ切り込んである溝の中に差し込んで留める方法である。鑞(ロウ)が使われていないところが特徴で、このようにして出来上がった作品で、時が経ち、肉取りの高いところが磨り減って、かぶせた金が破れ、その下から黒い赤銅の地金が見えている状態は何ともいえない古雅な味わいがするものである。…中略…刀装具に最も多く見られるのは室町時代の中頃から桃山時代の初めにかけてである。これは室町時代の末期に、新しく低温で接着できる鑞が開発されたことにより、いままでのウットリ色絵は廃れ、以後鑞付け色絵が接着の主流になる。なお、ウットリ色絵が全部剝げてしまった作品で、裾の切込みに僅かに金の跡が残っているものを時々見かけるが、彫口が素晴らしくよく出来ている。」(『刀装具鑑賞画題事典』福士繁雄著)となっています。

 

では、写真Aを見てください。以前本欄で話題にあげた“大根の目貫の古い方”です。写真Aの下部(拡大写真)をみてください。ウットリの手法の最大の特徴である裾(Aでは際端)を予め切り込んである溝という前述の説明の通り、拡大写真の中央やや左側に、明らかに細い線の如く溝状のものが写っています。これが溝(切込)の口が空いた状態のもので、その左右の方へ曲線状になっているのがわかり、小さいフリルの如き金の残片が連続して残されています。

写真A(上の全体)を見ると、大根の根の部分には全体的に金ウットリが施されていたのですが、長年の経過で手擦れ等により、その殆どの上面の金が無くなってしまい、結果的に目貫の際端部分に僅かにその金ウットリの一部が残されたもので、前述の説明にまさにピッタリとした好例です。

 

では、写真Bを見てください。写真Aと全く同じ状態が残されていますが、写真Aにある溝(口の空いた線状)は余りなく、金の残片がキッチリと残されています。また、写真A・Bともに大根の根の部分には直線的なキズや切込み状のものが、はっきりと残されていて、相当手荒い仕打ち(手擦や当り)が長い間にされて、金がめくれ、無くなってしまった痕跡が如実に出ています。その大根の根の部分の肉取(肉置、曲線によるふくらみ)は極めて力強くなっています。つまり、金の色絵が施されていなくとも、この肉置そのもので目貫の全体の力強さと構図の秀抜さが表現されています。

 

さて、写真C・Dを見て頂きたい。C図は大根の根の部分に多く残された金ウットリですが、金の厚みがよく写っています。写真Dでは大根の葉の部分の所ですが、目貫でも一番高い部分(山)の所の金が際端にわたりむけていて、めくれてしまっています。つまり、前述の説明文をそのまま表したかの様な状態です。

 

さて、同書の説明文をさらに引用すると「昔の職人は、見えないところであっても、このようにしっかりと彫っているものだと教わったが、私の見解では下地をきちんと彫らないと、ウットリ色絵の仕上がりも悪くなるから、手抜きは許されないものと思っている。」とあります。

「見えない所」というのは金で最終的に覆われる所であり、大根の根と葉の一部です。「ウットリ色絵の仕上がりも悪くなる」というのは、金で覆う部分全体の端の所で全周囲(谷から際端部分)を切り込んでいくので、ちゃんとしたアール(肉置)や彫状態にしていないと、力強さや構図の秀抜さにつながらなくなるという事だといえます。

いずれにしても狭く、細い所(谷や際端)に切込みを作っていくなんて、細かい作業をよく施したと感心します。それから大事な点は、ウットリと確認する最大の極手は、周囲に切込みの溝があるかないかです。これを明確に確認して欲しいのです。
(文責:中原信夫)

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