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INTELLIGENCE

+ 袋着(ふくろぎせ)

Copywritting by Nobuo Nakahara

 

前稿で約束した「袋着(ふくろぎせ)」についてですが、従来からの説では、「ウットリ」と「袋着」は同じであるとしています。しかし、以前から私は、このウットリと袋着は違うのではないかと思っているのです。

実際、小道具についての共通用語や統一規格化された言葉はなく、恐らく幕末・明治頃からの言い伝えや、俗称などが、入り混じってしまい、整理統合されないうちに、現在に至っていると思われます。

 

では、その袋着というと、私は果実に紙袋をかぶせる事を思い浮かべます。紙で袋(三方を糊付し、一方をあけた状態)を作り、その中に例えば桃の実なら、ある程度の大きくなった実より少し大きいサイズの袋をスッポリとかぶせ、そして果実の蔕(ヘタ)の下の細い枝の所で、紐でくくり締めておきます。これが農作業での袋着です。刀剣用語にしても昔からよく衆知されている自然現象や茶道などで使われる表現や言葉を転用して特徴や掟を教えたものであり、小道具での袋着も果実の袋着と原理的に同じ作業と方法ではないかと思われるのです。

 

つまり、高彫(地彫又は裏からの打出)にしたのを、金で上からスッポリと(紙)袋と同じように入れて全体を包み込み、地に近い所、つまり高彫にした所と地の境付近で、包み込んだ金を絞って留めるのです。これが農作業の袋着と似ている工法であったために、「袋着」と称した俗称なのでしょう。つまり、「ウットリ」は元の方に切込の溝が必ずあって、その切込の中に金を差し込み、切込を押さえて留めてしまうのですが、「袋着」には切込を作らず、恐らく地と高彫の境の元の所を ちょっと絞った型状にして、金が剥がれにくく取れにくいようにした。又は、低温で溶ける鑞を使って接着したとも考えられます。

当然、金は薄いものではなく、ある程度以上に厚目にしないといけないので、手擦などで金が部分的に剥がれたり、擦りとられたら、見た眼的にはウットリと区別がつきにくいと思われます。又、古い時代のものは模様(図)の谷にホコリ(埃)や手脂がたまりやすく、金と地の接点や切込みが判別しにくくなるので、ウットリと袋着の区別が明白になりにくかったのではないか、と推測しています。

 

現に、実物を手にとって拡大しても、金の周囲に切込は無いのに、説明ではウットリとあったり、その逆もあります。古美濃とされる、垂直で深い彫の下部付近の状態をみると、ウットリに必ずなければならない切込が全く施されていない例を多く見ていますが、こうした例が昔からいう「袋着」の方式ではないかとも思えるのです。

当然、時代が下がって、分厚い金板を鑞付したのが、一部破損したのが、ウットリが破れ剥がれた状態に見えるので、昔から誤認したのではないかとさえ思っています。

いずれにしても、「ウットリ」と「袋着」は違うという事は、十分にいえるのではないかと推測しています。尚、図示しておいたので十分な図示ではありませんが、一応の推測図としてみて頂きたいと思います。 ※図中で黒く塗りつぶしたのが金です。
(文責・中原信夫)

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